さて、試合が始まった。
「ドルフィンズ」の最初の得点はショーンだった。たぶん彼の得意技であろう。まるでディフェンスの動きを予測しているような、フェイントからのシュート、そしてシュートタッチ。
なるほど、「これはエースの動きだ」と、確信できるほどのシュートであった。
しかし!
入ったのはそれだけである 。
そのあとは、ボロボロとシュートを落とす。悪いことは続くのであって、パスミスまでした。速攻では、「自分が決めてやろう」という気持ちが焦りしぎて、オフェンスファールをとられるという最悪な場面もあった。完全に「シュート」に対して怖気づいた気持ちからくるものである。
幸いなことに、私の真後ろに、「ドルフィンズ」の熱狂的なファンがいて、逐一コメントをしてくれる。
「He’s not as usual. 」(今日は違うね)
「He’ got come back somehow soon. 」(はやく、いつもの調子を取り戻せなきゃいけないな)
などと、ショーンのことばかり話していた。やはり、彼がこのチームのキープレーヤーなのであろう。
しかし、彼は前半は 全然だめ であった。
前半の途中で気づいたのだが、彼がコートに入る前に 「儀式」 みたいなものがある。
オフィシャル席に座っている人と気合を入れているのである。オフィシャル席には自分のチームから1人だけスタッツをとるのために座らなければならないのである。チームメイトが座っているのである。
ショーンは、彼と拳をかためた「グー」で、チョコンと挨拶をするのである。よく外人同士が挨拶する、「グー」と「グー」同士をちょこんとぶつけて「行ってくるぜい!」「がんばってこいよ!」的な意味を込めた挨拶である。
ショーンはこの挨拶を、試合開始はもちろん、タイムアウト終了時や、交代などでコートに戻るたびにオフィシャル席の彼とやっていた。他の誰でもなく、彼だけとやっているのである。彼は幾度となく、この挨拶をしたのだろう。2人の中での「験担ぎ(げんかつぎ)」。
彼はショーンにとって 精神的に必要な人 である。
さて、後半が始まる。もちろん、ショーンはオフィシャル席の彼と「グー挨拶」をして戻った。
ショーンは相変わらず、シュートが入らない 。
後ろの実況中継も
「Come on, Sean!. When you’ll come back? 」(ショーン、頼むよ〜。いつになったら調子が戻るんだよ〜。)
「Oh, No. You’re such a horrible player today. 」(今日の彼はダメだね。)
などと、あきらめた口調。不満や不平がかわされていた。
そして、後半、残り7 分でタイムアウト。43 対37 と6 点差で負けている。
監督がショーンを下げた。あまりにもショーンがひどいのでやむをえなかい決断。いくらエースでも我慢できなかったのであろう。
タイムアウト終了の笛が鳴り、試合再開。オフィシャル席の彼も、いつもの「グー挨拶」ができないので、心配そうにショーンをみている。
ショーンがコートから出て1分。試合が動いた。ショーンがいなくなったことにより、中のスペースができたので、フォワードの選手たちのカットインがしやすくなった。得点を入れたり入れられたりの攻防が続いたが、ついに4点差まで詰め寄った。今まで、 4 点差に縮まったのはこの時点が始めて 。これはでかい。エース不在で、試合の流れがこちらに向いてきたのである。
ここで、今度は相手がタイムアウト。我々「ドルフィンズ」はイケイケムードである。
ここが勝負どころ と、誰が見てもわかる場面。しかし 、監督はショーンを呼んだ 。コートに戻るのである。
今シーズンを通してエースとしてチームをひっぱてきたショーン。今日の試合は調子が悪いが、今までの彼の実績を考慮に入れた監督の采配。これは、 どう考えても賭けである 。
監督の采配にチームメイトも待ってましたという顔つき。チームメイトも、 エースはショーンと認識 して練習をしてきた。
最後の試合である。今日で全てが終わるのである。あと10分ほどで全てが終わるのである。
ダメでもともとということではなく、あくまでも 勝利を前提にした交代 。それも 「ドルフィンズ」一丸となっての交代 。
タイムアウト終了の笛がなり、ショーンがオフィシャル席の彼と「グー挨拶」を交わした。
オフィシャル席の彼も、嬉しそうである。
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