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やったろうじゃん的バスケット事情 〜NY編〜
としゆき・こいずみ
毎月25日更新
2007/03/25 UPDATED
第38話 『誰がMVP?』

今、アメリカはバスケットボールシーズン真っ只中。

NBA だけではなく、NCAA (通称カレッジ・バスケ)も負けずと盛んである。

NCAA で著名な監督はNBA の監督よりも、給料がいいという。日本では、NBA が人気があるが、アメリカでは、カレッジバスケも負けず劣らずの人気である。

今回は、地区決勝戦をみてきた。やはり、生で試合を見たほうが断然面白い。カレッジバスケのチケットは、試合によって安い。今回は$5(約500円)だった。結構、間近で、迫力あるPLAY を見ることができる。テレビの中継もしていたし、観客も約1500人だという。結構な盛り上がりの試合を$5でみれるのは嬉しいかぎりである。

今回の試合は、第37話で話したブルックリン大学監督のアレックスの粋な計らいで、ベンチのすぐ後ろの席を用意してくれていた。なので、タイムアウトでの監督の声を張り上げたときの指示が聞こえたり、選手たちの汗の粒までもみえた。もしかしたらタイムアウト中の作戦ボードも見れるのではないかと思ったが、それは無理だった(残念)。

私が座った側のベンチは 「スタテン・アイランド・ドルフィンズ」 。リーグ2 位でトーナメントに出場。相手は、強豪 「ヨーク・カーディナルズ」 。こちらはもちろんリーグ1 位で出場。

下馬評では、「カーディナルズ」のほうが圧倒的に強い。応援席をみても向こうは全席が埋まっている。ほぼ全員がチームカラーの赤をそれぞれが身につけているので、余計に目立つ。

それに対して「ドルフィンズ」の応援席は、バラバラという感じ。

試合前のアップを見ていても、相手のほうが強いというよりは、こちらのほうが弱いという印象を受けた。身長、体つき、ボールハンドリングなどあまり上手ではない。

しかし、過去の直接対決では、1勝1敗である。「なぜ、このチームが1勝もできるのだろうか?」という思いが正直言ってあった。「本当に、ドルフィンズはリーグ戦で2位だったのか?」と、不審におもうくらいのレベル。

それはそれで楽しみ。このチームが、強豪チームとどのように試合展開をしていくのだろうか?

受付でもらったパンフレットのスタッツをみていたら、どうやら我々「ドルフィンズ」には、一人の中心選手がいるらしい。

SEAM WEISMULLER ショーン・ウェイスミュラー (33番)(以下ショーン)

どうやら彼がエースらしい。

なるほど近くで見るとでかい(195 cmくらい)し、それなりに貫禄もある。

しかし、でかいといっても2M 以上がゴロゴロいる相手のセンター陣と比べると華奢である。

■ベンチの真後ろで試合を見ることができた■

さて、試合が始まった。

「ドルフィンズ」の最初の得点はショーンだった。たぶん彼の得意技であろう。まるでディフェンスの動きを予測しているような、フェイントからのシュート、そしてシュートタッチ。

なるほど、「これはエースの動きだ」と、確信できるほどのシュートであった。

しかし!

入ったのはそれだけである

そのあとは、ボロボロとシュートを落とす。悪いことは続くのであって、パスミスまでした。速攻では、「自分が決めてやろう」という気持ちが焦りしぎて、オフェンスファールをとられるという最悪な場面もあった。完全に「シュート」に対して怖気づいた気持ちからくるものである。

幸いなことに、私の真後ろに、「ドルフィンズ」の熱狂的なファンがいて、逐一コメントをしてくれる。

「He’s not as usual. 」(今日は違うね)

「He’ got come back somehow soon. 」(はやく、いつもの調子を取り戻せなきゃいけないな)

などと、ショーンのことばかり話していた。やはり、彼がこのチームのキープレーヤーなのであろう。

しかし、彼は前半は 全然だめ であった。

前半の途中で気づいたのだが、彼がコートに入る前に 「儀式」 みたいなものがある。

オフィシャル席に座っている人と気合を入れているのである。オフィシャル席には自分のチームから1人だけスタッツをとるのために座らなければならないのである。チームメイトが座っているのである。

ショーンは、彼と拳をかためた「グー」で、チョコンと挨拶をするのである。よく外人同士が挨拶する、「グー」と「グー」同士をちょこんとぶつけて「行ってくるぜい!」「がんばってこいよ!」的な意味を込めた挨拶である。

ショーンはこの挨拶を、試合開始はもちろん、タイムアウト終了時や、交代などでコートに戻るたびにオフィシャル席の彼とやっていた。他の誰でもなく、彼だけとやっているのである。彼は幾度となく、この挨拶をしたのだろう。2人の中での「験担ぎ(げんかつぎ)」。

彼はショーンにとって 精神的に必要な人 である。

さて、後半が始まる。もちろん、ショーンはオフィシャル席の彼と「グー挨拶」をして戻った。

ショーンは相変わらず、シュートが入らない

後ろの実況中継も

「Come on, Sean!. When you’ll come back? 」(ショーン、頼むよ〜。いつになったら調子が戻るんだよ〜。)

「Oh, No. You’re such a horrible player today. 」(今日の彼はダメだね。)

などと、あきらめた口調。不満や不平がかわされていた。

そして、後半、残り7 分でタイムアウト。43 対37 と6 点差で負けている。

監督がショーンを下げた。あまりにもショーンがひどいのでやむをえなかい決断。いくらエースでも我慢できなかったのであろう。

タイムアウト終了の笛が鳴り、試合再開。オフィシャル席の彼も、いつもの「グー挨拶」ができないので、心配そうにショーンをみている。

ショーンがコートから出て1分。試合が動いた。ショーンがいなくなったことにより、中のスペースができたので、フォワードの選手たちのカットインがしやすくなった。得点を入れたり入れられたりの攻防が続いたが、ついに4点差まで詰め寄った。今まで、 4 点差に縮まったのはこの時点が始めて 。これはでかい。エース不在で、試合の流れがこちらに向いてきたのである。

ここで、今度は相手がタイムアウト。我々「ドルフィンズ」はイケイケムードである。

ここが勝負どころ と、誰が見てもわかる場面。しかし 、監督はショーンを呼んだ 。コートに戻るのである。

今シーズンを通してエースとしてチームをひっぱてきたショーン。今日の試合は調子が悪いが、今までの彼の実績を考慮に入れた監督の采配。これは、 どう考えても賭けである

監督の采配にチームメイトも待ってましたという顔つき。チームメイトも、 エースはショーンと認識 して練習をしてきた。

最後の試合である。今日で全てが終わるのである。あと10分ほどで全てが終わるのである。

ダメでもともとということではなく、あくまでも 勝利を前提にした交代 。それも 「ドルフィンズ」一丸となっての交代

タイムアウト終了の笛がなり、ショーンがオフィシャル席の彼と「グー挨拶」を交わした。

オフィシャル席の彼も、嬉しそうである。

■ミスが続くショーン(真ん中・紺赤色ユニフォーム)■
■ショーンにボールは集まるが、得点に結びつかない■

さぁ、試合で一番大事な場面。エースのショーンはどうするか。

速攻からショーンにボールがまわってきた。ちょうど試合の開始直前、チーム最初の得点を入れたときと同じくらいの場所。

私はもちろん、後ろの実況中継者、オフィシャルの彼、応援団、監督、チームメイト、誰もが「入れ!」と念じていただろう。

後ろの熱狂的ファンたちも

「Go get it! 」(いけぇ!)

「You know what to do! 」(お前ならできる!)

私も「これ入れたら、今までの失敗を帳消しにしてやる!」と心の中で叫んでいた。

ほんの2秒くらいのPLAY だが、いろんな気持ちが、このシュートに込められている。彼自身の後ろには、それまで一生懸命やってきた練習の様子が目に浮かぶ。

ショーンが、シュートモーションにはいった。

スナップをきかせて、ボールを放った。

ボールはボードには向かわず、直接リングに向かう。

一瞬、会場の音が消えたように、集中された。

「はいれ!」と誰もが願ったシュート。

「スパッ」

ボールがゴールに吸い込まれていった。

と、同時にギャーッという大歓声!

応援席総立ち!

ベンチも飛び上がって喜んでいる。

後ろのファンも「Yes! Yes! Yes! 」と連呼。オフィシャル席の彼もグーを握り締めて喜びをかみしめている。

ここからチームがムードに乗った。これで、選手が波にのり ついに逆転

なんとか1点差のリードを保ちながら試合終了時間が近づいてくる。

ここまできたら1 秒1 秒が長く感じる。

残り4秒、ドルフィンズボール 。相手は、もうファールゲームしかない。ファールをされて2 本のフリースローをもらう。

こっちは、盛り上がる。まわりから「優勝」という声が聞こえてくる。

しかし、 1 本目をはずした

そして、 2 本目もはずした

これを、相手がリバウンドを取った。

ガードの選手がボールを運ぶ。

残り3秒 。彼はパスもせずに、一人でボールを運ぼうとしている。

残り2秒

がむしゃらに、ハーフコートより手前のところで、シュートを打った。いや投げた

残り1秒

0秒 。ブーッ。と試合終了のブザーがなった。

スパっ。

あれ?あれ?

ギャーッという叫び声。

がむしゃらにうったはずのシュートが入ってしまった。

試合終了。逆転負け。しかも、ミラクルといっていいほどのシュートで。99%「ドルフィンズ」の勝利を確信していたのに、こんな幕切れとは。。。。。。

ショーンも、がっくりと肩を落としている。

まさか、まさかのロングシュート。それが、決勝戦の逆転シュートとは。。。。

まさに、TV の一場面のようにコートに全員が集まっている。シュートを入れた選手を中心にメンバーや、コーチ、ベンチのみんな、応援団が、コートの真ん中でもみくちゃになっていた。

まるで天気図の中の台風のようなその円陣は、どんどん大きくなっていっている。

それとは反対に「ドルフィンズ」軍団はベンチに座り、方を落としている。

急に M V P !  M V P !!」 という掛け声が台風の中から始まった。

M V P というコールとともに、全員がある1つのところを指差していた。

M V P !  M V P !」

その指差すところは、もちろん円陣の中心にいる、最後にシュートを決めた選手である。

M V P !  M V P !」

気がつくと、そのコールは会場全部にひろがっていた。

M V P !  M V P !」

その歓声の中で私は思った。

さて、この試合。

様々なドラマがあったが、本当のMVP という称号は誰にいくべきであるのか?

結果を出した、逆転シュートを入れた選手か?

今まで弱小チームをひっぱってきたショーンか?

ここまでがんばってきたチームメイトか?

調子が悪いショーンを最後に交代した監督の采配か?

選手たちを支えてきたサポーターか?

いつもショーンと「グー挨拶」をする彼か?

果たして誰であろうか?

■ミラクルシュートを決められた後のドルフィンズ・ベンチ■
■試合終了後のカーディナルズ・ベンチ(奥)とドルフィンズ・ベンチ(手前)■
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