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やったろうじゃん的バスケット事情 〜NY編〜
としゆき・こいずみ
毎月25日更新
2005/11/10 UPDATED
第12話 『トライ・アウト』

9月18日(日)午後。「受かりましたよ!」との、電話が入った。

「翔」からの電話である。「翔」というのは我々「Super Soul Sonics」のメンバーで、バスケとともに生きていこうとしている選手である。今は、バスケットに対して真剣に取り組んでいる彼に朗報が転がってきた。ABAのトライ・アウトを見つけてきたのである。そして、見事、一次テストに合格したのである。

トライ・アウトとはいわゆる「入団テスト」である。チームに入るにはこれをパスしなければならない。しかも、入団テストは3次テストまである(チームによって違うのだが)。テストといっても、筆記試験とかではもちろんない。実技オンリーだ。2次テストに受かった後、3次テストはキャンプ(まぁ、合宿のようなもの)に入り、そこで、最終的なメンバーが選考される。それから初めて公式シーズンがスタートする。

今回、翔が受けたチームは「Harlem Strong Dogs」。NYをホームにしている ABA に所属するチームである。去年は藤野君がPLAYしたチームであり、今年は中川君がPLAYする予定である。

9月17(土)、18(日)の2日間にわたって行われた1次テストは約30人参加した。気になる日本人の数は5人。その中から、合格したのは15人。日本人を含めたアジア人は「翔」1人だけ。

素直に喜びたいところだけど、まだ一次テストをパスしたばかり。しかも、このとき「翔」は3日前にやった足首の捻挫を抱えていての参加。なので、100%力を出し切れていなかった。実は本人も受かるかどうか不安であった。しかし、結果は合格。次の2次テストまでは、コンディションを整えて、参加したい。不安な気持ちで受けるのではなく、120%でのぞみたいところ。2次テストは1ヵ月後の10月15日(土)、16日(日)である。

10月15日(土)。この日は、私も会場に見に行った。朝9:00に始まるというので眠い目をこすりながら見学にいった。私もトライ・アウト自体は始めてなので、緊張した気持ちで会場に入った。まず、会場に入ると、「ピーン」と張りつめている空気が朝の体育館一面に漂っていた。眠気も一気に覚める。さすがに1次テストを合格してきただけの選手たちである。

ただ、聞こえるのは、「ドン!ドン!ドン!」とボールを突く音と、「パサッ」というシュートが入る音だけ。みんな、各自でウォームアップをしている。シュートをしている者、ストレッチをしている者、各々集中しようとしているのがこちらまで伝わってくるようだ。

異様な雰囲気である。普通なら話し声や笑い声が聞こえてくる体育館も、ただバスケに必要な音しか聞こえてこない。

ドン!ドン!パサッ! 

ドン!ドン!ドン!パサッ!

話し声は聞こえない。厳かな雰囲気さえしてくる。

「翔」を探すと、こっちを向いて手を振っている。リラックスできているようだ。軽い挨拶をしただけだ。「翔」もみんなと一緒に集中させてあげたい。表情を見ると、リラックスしているのだろうか、余裕なのだろうか、少し笑顔が見えた。しっかり汗をかいてウォームアップ万全だった。

しかし、おかしい。「翔」に聞いたところによると、一次テストの合格者は15人のはずなのに、30人くらいはいる。

実はこれもビジネスなのです。

というのは、このトライ・アウトは一般参加OKなのです。たとえバスケ1年くらいしかやっていなくても、参加OKなのです。

但し、お金を払えば

$100(1万円強)を払うと、参加できるのです。しかも、このトライ・アウトの参加費が大事なチームの資金源になっているらしいです。つまりキャンプまで含めると3回テストがあるが、その都度ごとに、新しい参加者が増えてくるのです。それが、結構な人数なので、チームの運営費に使われるといったシステムなのです。ひとつだけ返金が可能な場合がある。それは、チーム・メンバーに選ばれた場合である。最後のテストまで、残った選手には、この$100は返金されるということです。

この$100を高いと思うのか、安いと思うのか、それは個人によって違うのではないだろうか。私自身は妥当ではないかと思う。$100払って、ABAに入れる可能性を買うという風に考えれば、それくらいなのではないだろうか。それに、 ABA もしくは、 NBA を狙っている奴らと一緒にPLAYできるだけでもいい機会だと思う。そこから、友人ができて、また別のトライ・アウトを紹介してくれるなんてこともあるはず。転がっているチャンスを拾わないことはない。コネクションを作るのにもいい機会である。

■翔(5番)は、小さくてもスピードは人一倍■

さてさて、トライ・アウト2次テストの当日に話は戻る。最初はミーティング。今日の予定等を話しているらしい。

そして、実際に始まった。監督が直々に笛を持って指導している。最初は「クロスの3メン」。各選手が無難にこなしていく。ダンクなんて当たり前。しかし、簡単なレイアップ・シュートを落すと、監督がすかさず、ピーィ!と笛を吹いて、やり直し。

なるほど、こうやって一つのこだわりみたいのをもって指導してるのだなと感心していた。

練習が「クロスの3メン」から、戻りは「2対1」の練習になった。

ディフェンスが出てくると選手たちは、いかに自分をアピールしようかと、ドリブルを派手に見せたり、派手なダンクをしたりし始めた。

「翔」も得意のスピードでアピールしている。パスも決まりだしている。もちろん、今日来てる選手たちの中では低く、華奢である。そのでかい奴らの中をかいくぐるように、 PLAY している。

さて、練習も中盤くらいになってきた。「2対2」や「3対3」をやりだしている。「練習」と書いたが、そうなのだ。ふっと気づいたのは、俺はトライアウトを観に来ているのに、まるで練習を観にきているかのような錯覚に陥ったのである。つまり、私がイメージしていたトライアウトとは全然違ったのである。ただ単に練習をしているだけのようである。

だから、「3対3」をやっているときに、監督が細かく笛を吹いて、練習をとめていた。そして、指導しているのである。指導している内容はなんと「ディフェンス」。オーバーディフェンスの仕方や、ヘルプの仕方。中学生が学ぶようなディフェンスの基本的な手の広げ方等々。スクリーンのときにファイト・オーバーや、スイッチ。驚いたことにディフェンスの中で特に指導しているのが、「チームディフェンス」。

で、とうとう監督がみんなに言った。笛を吹いて練習をとめた。

「 I don’t wanna see your showy offense. (派手なオフェンスなんてみたくないんだ)

I don’t wanna see your fancy dribble. (カッコいいドリブルなんて期待していない)

I don’t care your basketball. (君たちのバスケットスタイルなんて知ったこっちゃない)

What I wanna see is the team play…. (チームプレーができるかどうかが、みたいんだ)

あぁ、そうなんだ、と思った。確かに、うまい奴は必要かもしれないけど、その選手が今のチームに必要かどうかは別の問題である。このトライアウトは監督が欲しい選手を見つけるためである。それを再認識した。

しかし、この監督は言いたいことを言っている。アメリカのバスケって、選手を尊重して、褒めて伸ばす教育をしているかと思えば、実際にこっちにきてみて、その逆を目にすることが多い。たまに、練習をみる機会があると、監督も結構怒鳴っているし、著名な監督の本を読んでいても厳しいことが書いてあるし、最近の映画「Coach Carter」でも、厳しい・・・・・この監督もしかり。

練習中に、ポジションどりの場面があって、オフェンスがディフェンスをひじで押していたのを見た瞬間。

「 I don’t know why you all guys do like that.( なんでみんなが、そういうふうにやるのがわかない )

Just stay your position and turn around. (ここにたって、体をひねればいいだけだ)

You don’t need to use your elbow. (ひじなんて使う必要はないだろ!)

Just go home. (もう帰れ、帰れ!) .

I don’t see that again. (そんなPLAYはみたくない)」

選手からみれば、死活問題である。大袈裟でもなく本当だ。ここで、受かればバスケで飯が食っていける可能性がでてくる。なので、ついムキになってラフな PLAY をしてしまうこともしばしばあるのであろう。でも、監督はそういう場面を見逃さない。そこはお互い引けないところであるのは、外から見ていて興味深かった。しかし、所詮、選ぶのは監督・スタッフであるチーム側であるのはいうもでもない。このチームが欲しいと思っているPLAYをしなければ意味がない。

この監督はよく練習を中断する。オールコートで「4対4」をやっているときに、ディフェンスがナイスカットをして、速攻というときに、ピィ〜!と笛を吹く。選手側としては、これからのっていき、「さぁ、行くぞ!」ところという時に、笛を吹くので選手はリズムを壊してしまう。

■アシスタント・コーチ、監督(左から2番目)、トレーナー■

3時間くらいたった。もうそろそろ終わりかな・・なんて思っていたら、次は、「走り」の練習である。

バスケ経験者なら知っていると思うが、あの、やりたくない練習の一つである「シャトル・ラン」が始まった。「シャトル・ラン」とは、コートのはじをスタート地点として、まずはコートの1 /4 のところまでダッシュをして、すかさずターンをして、またスタート地点にもどり、すぐに、体の向きを変えて、今度はコートの半分までダッシュ。そこから、またターンをして、スタート地点までもどり、今度はコートの3 / 4までダッシュ。そして、ターンをして、今度はコートの逆はじまでダッシュ。そして、スタート地点に戻って終わり。という、練習である。本当にイヤになる練習である。

これを、監督は30秒以内でやれと指示。30秒って結構きつい。みんな嫌々スタートラインに並ぶ。ピィッと笛が鳴りスタート。一生懸命走っている選手もいれば、だらだらと走っている選手もいる。案の定、30秒以内に走りきれない選手が何人もいた。

監督が一言

I said, ‘Come back in 30 seconds.’ Which means come back in 30 seconds. Not in 35 seconds, not in 40 seconds. In 30 seconds. One more time.

(30秒以内と言ったはずだ。つまり …… 30秒以内ということだろ。35秒以内でもなければ、40秒以内でもない。30秒以内だ。もう1回)

そして、一斉にみんなが走り出した。今度は、さっきと比べてみんな一生懸命走っている。

それでも、何人か、30秒以内に戻れなった。

I see couple people can’t make it. you guys are teammate, right? So you’ll share everything. All the people have to come back in 30 seconds. But you guys can’t. Then you all have to do it again.

(何人かの選手は戻ってこれなったな。みんなチームメイトだろ?なんでも一つなんだぞ。みんなが30秒以内に戻ってこなきゃダメだ。でも、できなったな?ということは、もう1回だ。)

しかし、今度は5秒増やして35秒以内で走りきれとの指示。すかさず、笛が鳴りスタート。今度はみんな一斉に走り出す。もうやりたくないのだ。さっきとは違うスピードで走る。みんな35秒ギリギリくらいである。一人だけ明らかに遅れている。黒人にしては弱々しい体格の選手だ。彼は練習では結構張り切っていたのに、走りではダメらしい。 ああ、このままでは、またか・・とみんなの脳裏に嫌な予感がよぎる。案の定、彼一人だけ35秒で終えれなかった。

You have to do it again. Rule is rule. (もう1回だ。ルールはルールだ)

そこで、彼一人がスタートラインに立ち、これからスタートという時に、監督が一言

Hey! you guys let him do this alone? You guys are team. Anybody’s gonna do this with him? What’s wrong with you guys??

(おいおい、彼一人にやらせる気か?お前らチームだろ?誰か一緒に走る奴はいないのか?いったいどうなってんだよ!)

そうすると、2人の選手が手を上げてでてきた。合計3人でスタート。時間指定はなしである。3人以外の選手もコートのそとで、声をかけている。「がんばれ」「あと、少しだ」とか。45秒くらいで、3人全員が終わった。みんなも、「よくやった」と、3人に拍手を送った。しかし、これで終わりでなかった。監督また一言。

What’s wrong with the people….people who didn’t run with him. Only 2 guys share with him? Is this a team? Just go! Everybody without 3 people gottta run. In 25 seconds!!

(なにを考えているんだ?彼と一緒に走らなかった奴はなにを考えているんだ?たった2人だけが彼と走ったのか?これが、「チーム」か?もう1回だ。3人以外全員もう1回!25秒以内で!)

言いきるやいなや、すぐに笛が鳴る。選手も、これで終わりかと思っていたところに、もう1回。しかも25秒なんて、無理だ。一生懸命走っている選手もいれば、あきらかに、25秒は無理だとあきらめている選手もいる。25秒がたち、ほとんどの選手が時間内に戻ってこれなかった。

監督もちろん、

Do it again. (もう一回)

休む間もなく、もう1回始まる。

こんな感じで、計10本以上走っていた。勘違いしないで欲しい。今日はトライ・アウトである。練習でもなく、合宿でもない。なのにまるで夏の合宿を見ているようだ。

■終わらないシャトル・ラン■

信じられないが、この地獄のシャトル・ランメニューのあと、フォーメーションの練習をやった。これでもか、これでもかというくらいに練習をやっている。

そして、やっと練習終了。4時間くらいやっていた。そこで最後のミーティングとなった。

15分くらいミーティングをやっていたのだろうか、ようやく円陣を組み、本日のトライ・アウト終了。今日の時点では、合格発表はなし。明日のトライアウトで決定するという。みんなそれぞれ、疲れきっていた。

10月17日(日)。次の日に集まったのは、25人。昨日来た選手の中で現れたのは、20人。残りの5人は新しく来た選手だ。レベルが高い。「翔」は昨日のトライ・アウトの後に、バイトが入っており、今日も朝も早い集合なので、ゆっくり体を休めることがができなかった。そんな体で、通用するような甘い世界ではなかった。その日の最後の合格発表の時に、彼の名前はあがらなかった・・・。

NBA の下には、様々なマイナーリーグがあり、挑戦者が後を絶たない。こうしている今でも、彼らはバスケットをしているだろう。よりうまくなるために。 NBA に入るために。

日本人でも、バスケがやりたければ NY に来てほしい!そして、是非とも挑戦してほしい。本気でやりたければ、道はみえるであろう。翔も、次のトライアウトに向けて練習中である。
■こんなにたくさんの人がバスケで飯を食おうとしている■
としゆき・こいずみプロフィール
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