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フカフカまんじゅうキック
『八月の里帰り(2)』
2005/09/20 UP

「この夏2ヶ月実家に帰ってたんですけど、日本語はしっかり覚えてきました!」
とある日本人のお母さんが昨年の今頃言っていたのを聞いて、そうかそうかと感心していたものですが、今年も2ヶ月行っていると誰かから聞きました。
うちのお父さんは「不可能です、ふた月は。」と言い、別のお父さんと「家族と離
れて暮らすのは2週間が限度ですよ」と話していました。そのもう一人のインド系のお父さんは、お母さんが子ども3人連れてNY近郊の温泉に行ったそうですが、3日めには寂しさに耐え切れず、迎えに行ってしまったそうです。

2週間私と子どもで行って、後の2週間お父さんも合流というかたちで、ひと月の
田舎滞在が可能となったわけですが、ふた月とはいかずとも、ひと月なりに、ひと月分、言葉を含めてしっかり養分を吸ってきたと思います。

終始英語交じりの会話は避けられなかったので、ことにはじめのうちは、おじい
ちゃんおばあちゃんに話し掛けるのでも「ありさんゴーインおうち?」とやるので、
二人とも時折孫の顔を凝視したまま固まってしまっているのを見かけましたが、しだ いに慣れていったようです。
まあ息子にしてみても、そこでは皆方言丸出しの日本語で喋ってるわけですから、言葉での意思表示はそう簡単ではなかったでしょう。なんとなく、総合的なフットワークを駆使して(こんな表現しかできませんが)ものごとの理解をしてたんでしょうか。それで脳の発達につながったのか、そのくらいなものなのか、2週間目にお父さんが来て英語で喋りだしたとき、随分スラリスラリと以前より複雑な表現をしているではあーりませんか。

終戦記念日の前には、テレビでのニュースで「戦後60年」というフレーズを繰り
返していたため、数字好きの触覚に触れたか、これがこの滞在で最初に新しく覚えた日本語でした。「戦後60年、おかあさん。」
次は車のナンバープレートの数字の日本語読み。「おじいちゃんの車は」と言うかわりに、「黒29くるま」。「おばちゃんの車」でなく「しかくオレンジくるま37
のなんとか」と呼ぶのでした。私がうれしかったのは、ナンバープレートの数字の脇のひらがなに着目してくれたことでした。炎天下のパーキングで「これなに」「そ」 「そば!これなに」「な」「なな!これなに」「そ」「そうめん!これなに」がえん
えんと続くのにはくらくらしましたが、なに、喉元過ぎれば熱さ忘るるとは「母」の
ためにある言葉。

うちのお父さんは不思議な人で、時にどんな電磁波を出しているんだろうと思うことがあります。桑の木の下で飲んでいると、桑の実を食べに来たリスらに彼だけおしっこを何度もかけられ、道を歩けば彼だけが、スズメにふんではなくおしっこをかけられ、海、山に行けば彼だけが、アブに襲われる。そのくせ蚊は寄ってこない。なんなんだ。
その日はおじいちゃん、お父さん、孫と3人で山の上の露天風呂へ車で出かけてゆきました。行きには降っていた雨も、着く頃にはあがったんだそうです。期待どおりまわりを山々に囲まれて、やや曇り空で、霧も向かいの斜面にまだ残っていてきれいだったでしょう。雨上がりだったせいか他にお客さんもいなかったそうです。ところが、気の毒なことにこの時も彼だけに、体調3センチのアブが向かって来たんだそうです。「myF・men!myF・men!」とわめきながら両腕をばたばたさせてたらいを掴んでお湯を撒き、体をくねらせ腰を曲げ、バチバチと体中を叩き、お湯のなかに潜っても、鼻から上を出すと額にとまるんだそうです。孫とおじいちゃんは「なんだかおもしろいなー」と見ていただけで、襲われなかったというから不思議。
お父さんは景色も見れず、潜りはしてもお湯には浸かれず、なんの疲れも癒せずに他の二人と食堂へ向かうべくして土産物エリアを通ると、窓を拭いていたおばちゃんが息子を見て「まあかわいい」とにっこりしてくれたその前を通りながら子どもが「myF・men!myF・men!」。お父さんの必死で繰り返すリズミカルな言葉に魅せられたんでしょう。顔をこわばらせたお父さんをよそに、覚えたてを大得意で連呼しました。

日本語では他にも、せみ、とんぼ、カブト虫、アゲハチョウ、ごみ、だいじ、じゃ
ま、アガリトー(ありがとう)、トウモコロシ(とうもろこし)、なむなむー(仏様
に拝む)だべ(語尾に付ける方言)などと増えていき、ビデオで見ただんご3兄弟のあっという間劇場にも魅せられました。ひらがなに関しては、駐車場で車のナンバープレートを見るのと、ピタゴラスイッチのお父さんスイッチ(おじいちゃんも可)の併用で、ぐいっと興味を引くことができました。
子どもの日本語のことだけをとってもたくさん収穫がありましたが、いろんな意味
でいろんな人が楽しめた、総合して良いひと月でした。お盆もできたし魚釣り、花
火、もできた。これ以上を望んだらばちがあたるでしょう。

ばちって、罰ですかね、それともわたしのイメージどおり、太鼓のバチですかね。

大口一葉 ふかふかまんじゅうキック


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